無自覚に陥る『自分が正しい』の悪循環【知的謙遜】
<『自分は正しい』という思い込み>
「間違いは誰にでも起きる」
「自分の知ってることは限られている」
ということを冷静に受け入れる『知的謙遜(知的な謙虚さ)』について以前に紹介しました。所謂『無知の知』ですね。これが疎かになると「自分は正しい」というバイアス(思い込み)が強くなり、様々な場面で判断を間違えてしまいます。
https://theconversation.com/could-a-lack-of-humility-be-at-the-root-of-what-ails-america-116118
これに関して、ノックス大学の心理学教授フランク氏が「現代社会は知的謙遜が低い人間を好み、そういった人間を生み出しやすい構造になっている」と指摘しています。そんな訳で、定期的に振り返るシリーズとして今回は知的謙遜について取り上げます。
<知的謙遜とは>
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/009164711404200103
『知的な謙虚さと宗教観』
知的謙遜は人格心理学の分野で最近注目されだした考え方で、人間関係や知識、世界観に大きな影響を与えることを複数の研究が報告しています。特に人間が陥りやすい思考の偏り、所謂バイアスに対して、知的謙遜は非常に大きな関わりを持っています。
顕著に見られたのが反対意見に対する反応です。知的謙遜のスコアが高い人は①曖昧さに対して忍耐強い②反対意見に対しては証拠を求める③答えは一つとは限らないと考える傾向にあったようです。知的謙遜のスコアが高い人のほうがバイアスに引っ張られずに正しい判断を下すことが出来るというのは当然と言えますね。
知的謙遜の根本にあるのは、「個人の知識や認識はパズルのピースに過ぎない」という姿勢です。例えば大人は子供よりも多くの知識を持っているため、自分の認識は子供の認識よりも常に多く正確だと考えてしまいます。しかしそれは間違いで、実際には大人には大人が認識しているパズルのピースがあり、子供には子供の認識しているパズルのピースがあると考えなければいけないのです。
知的謙遜について詳しく知りたい方は以前の記事をどうぞ
<知的謙遜を下げさせる現代社会>
一般的に知的スコアの高い人というのは多くありません。デューク大学のメアリー氏が行った実験では、「過去6ヶ月の間に自分の意見が同意されなかったときのことを思い出してください。そのうち自分が正しいと思ったのは何%ですか?」という質問に対して、回答の平均は66%であり、なんと50%以下と答えた人は殆どいませんでした。ネガティブな経験ほど頭に残りやすいという傾向を差し引いても、やはり人間は「自分の意見が正しい」と潜在的に思ってしまう生き物のようです。
その上現代ではSNSなどの情報共有媒体が発達したおかげで、「知的謙遜が低い人ほどよりその傾向が強くなってしまう」とフランク氏は指摘しています。インターネットの発達は、知的謙遜のスコアが高い人にとっては幅広い意見を集め、より正しい判断を下すための助けになりますが、知的謙遜が低い人の場合だとそうはいきません。
①知的謙遜が低い人は反対意見を許容できない
②ネットの世界では自分の意見を後押ししてくれる考え方が簡単に見つかる
③自分の考え方に賛同してくれるものばかりで集まることで、より知的謙遜が低くなる
という悪循環になってしまうのです。この辺りの話は、以前にバイアスの話をしたときに、確証バイアス(自分の意見に賛成する情報しか目に入ってこなくなる傾向)としてお伝えしたことがありますね。
<知的謙遜を高めるために>
「知的謙遜を高めたいけどどうすればいいんだろう?」
と思った人は、まずは半分以上知的謙遜が出来ていると言えます。知的謙遜が低い人ほど、知的謙遜の必要性を感じられないんですよね(笑)
ちなみに知的謙遜を高めるトレーニングみたいなのはまだ研究途中です。
知的謙遜を高めるポイントとして以前に紹介したのは
・自分の感情と判断を切り離せるか
・新たな根拠が示された時、自分の意見を変えられるか
・自分と違う他人の考え方や視点を尊重できるか
・自分の知識に過剰な自信を持ってしまっていないか
について定期的に振り返るようにすることが大切ですね。
また、もう一つの方法として、バイアスについて知るというのも有効です。『人間は無自覚に思い込みにとらわれてしまう』ということを自覚しておくことは、その人の知的謙遜のスコアを高めてくれます。
そういう意味では、自分の認識していない部分が学べるような本を読むことも知的謙遜を高めるのにはピッタリだと言えるでしょう。あなたは「自分が正しい」にとらわれていませんか?